special day / 3






「なんだ、お前らか」


ち、焦って損した。
あー、うるさいな。なんで人の家に来てケンカなんてしてやがんだ。
呼び鈴もならさねぇで、勝手に入ってきてやがるし。

「工藤!聞いてんか!こいつこっそり忍び込もうとしよったんやで!」
「何言ってるんですか!君こそ無断侵入しようとしていたから僕が注意したんじゃありませんか!」
「オレが注意したんや!」
「いいえ!僕です!」

別にどっちがどうでもいいけど。
お前らの相手なんてしてやる気なんてないから、そこでつかみ合ってくれてる方がありがたい。
ほっといて、キッチンに戻ろっと。
え、と。何をするんだっけ。

チーン。

お、いいタイミング!
どんな焼き上がりかな、ぁ…焦げくさい。
ちょっと、黒いし。なんか、ぺったんこだし。
ケーキってもっとふっくらしてなかったか?

……いいや。とにかくコレを皿にひっくり返して―――――で、新聞紙を外して………。

ま、まだら模様…ってか、字が写ってる…剥がれてない……。
そうだ!きれいなとこだけにすればいいんだ!
ラウンドじゃなくったって一口サイズのケーキにすれば!よし、そうしよ。

へ?なんでこんなに包丁にべったりと付くんだ?
……生焼け……しかも、ヘンなにおいがする…………。


「工藤っ!!こんなヤツほったってオレと一緒に…って、これはっ?!」
「工藤くん!!こんな人はさっさと追い出し…て、一体どうしたんです?!泥棒に入られたんですかっ?!」

むか。

「白馬、ちょっと」

にっこり。笑顔をサービスしてやる。

「ハハハハイッ!何ですかっ?!」
「く、くど…ぉ……っ」

「口開けろ」
「は、あ?…っんぐっ……○×▲#$???!!!」」

すげぇ。
こういうのを"みるみる青ざめていく"って表現するんだなぁ。
とにかくコレは廃棄だ。快斗にこんなモン、食べさせられない。
毒見役がいてよかった。

「洗面所は向こう」

そうそう、さっさと行け。こんなとこで吐くんじゃねぇっての。

「くどぉっ!!ナイスな撃退やぁ!!毒の研究でもしよったんかぁ!!」

むかむか。

「服部、ここキレイに片付けろ。コレとゴミをまとめたら、お前のそのバックに入れて持って帰れ」
「…へ?あ、あの工藤…さん…それはどういう…」
「言った通りだ」

許可なくあがってきたんだから、証拠隠滅の手伝いぐらいしやがれ。
快斗のキッチンだから、汚したままなんてしたくないし。

「ボールは真上の棚、泡だて器とかヘラはそこの引き出し。材料類は見てわかるよな。塵ひとつ落ちてないようにしろ」

わかったら返事。

「は、はい…っ!!す、すぐしますッ!」

イントネーションが標準語になってる。ヘンなやつ。
ま、どうでもいいけど。それよりも!
ケーキがダメってことは…何かそれっぽいご馳走を、つく………れるワケない。じゃ、電話だ。

pipipipipipipipi。

「もしもし、杯戸グランドホテル?―――米花町の工藤です――ええ、フルコースのデリバリーをお願いします。二人前で魚は使わないで、大きなケーキをつけてください―――できるだけ早く――はい、よろしく」

これで問題解決。
だけど、ご馳走用意しても記念日って感じじゃない。
オレ自身がやったって実感できることってないかなぁ。
快斗をビックリさせてアタフタさせるなにか…。
う〜ん……要は、普段しないことをすればいいんだよな?
普段しないこと、って言えば――家事…だな。家事とくれば料理、じゃなくて―――洗濯か!
よーし、洗濯しよっと!



ま、洗濯なんて実際は洗濯機がするんだから、楽勝楽勝。
んー、『入/切』ってのがスイッチで、『コース』ってとこで選べばいいんだな。
じゃ、とりあえず何か洗ってみよう。
……あれ?
こんなとこにジャケットが脱ぎ散らかしてある。
おかしいな…快斗がこんなだらしのないことするなんて…。
いっか、きっと急いでたんだろうし。ここに置いてったってことは洗っていいってことだよな。
入れて蓋をして、スイッチON。それから…標準、手もみ、ドライ、よごれ少なめ、よごれ多め――多めコースにしよ。
やっぱり洗濯は根こそぎ汚れを取らないと意味ない。これからどうすれ…うわっ!
ビックリした。急に動き出すんだから。
そ、か。これが全自動なのか。あ、水が入ってきた。スゴイなぁ。
あ!洗剤入れてない。えーと、洗剤ってどれだろ。粉洗剤に液体洗剤、漂白剤…こっちは柔軟剤、ドライ用洗剤…んんーーま、水に溶けやすそうだから液体洗剤にしよ。分量は…適当適当…ヨシ。
できあがり時間は25分後……時間けちったらまた失敗するから大人しく待とう。



piropiro〜♪


できたできた!
これを干し………………たら…もとのカタチに戻る…のか?……それに…なんか…小さくなってる…し…。
う、うーーん……襟…原型とどめてないような……オレ、のサイズ…より…もっと……色も…褪せてる…かも…。
どうしよう?!
え、と…え、と……同じものってか、似たのを買ってきて誤魔化すしかない、よな!
さっそく買いに――わっ!

「なんだ、白馬か。何してんだ、こんなとこで」

驚かすなよな。さっきからいたなら声かけろよ。
なんで洗面台を抱きしめてんだ。

「あ…あぁ…工藤…くん…た、大変失礼を…いたしました…っ!!こ、このような粗相をして申しわけ…な、い…………あ、の?工藤くん……それは僕の……ジャケット……で、は……????」
「え?コレ、白馬のか?」

そういや、さっき着てたな。
どうでもいいから思い出しもしなかったぜ。
大体、快斗が脱ぎ散らしなんてするはずがなかったんだ。

「よかった、快斗のジャケットを滅茶苦茶にしたんじゃなくて。そうだよなー、快斗のにしてはなんだか袖丈が短いような気がしてたんだ」
「そ…そそんな……黒羽くんの…ほうが…そんな…」
「コレ返すな。うちに捨てて帰るなよ」


快斗のじゃないなら証拠隠滅も必要ないし、よかったよかった。
さて。洗濯もこの調子じゃできっこないから他のことだな。洗濯がダメってことは……そうだ!アイロンかけをしよう!
あれならできる。アイロンあっためて、布の上を滑らせるだけだから。よし!


アイロンは確かリビングの収納の中。
快斗は大抵オレの傍で色々なことするから。ちゃんと家事室だってあるのに。
……そりゃ、うれしいケド。
本読んでて何の気なしにカオをあげると、いつもソコにいる。そういや、姿を捜す…なんてしたことないや。
こういうのって"痒いところへ手が届く"ってなもんかなー…ちょっと違うかな…ふふ。


コンセント差し込んで、スイッチ……高、中、低、であわせるのか。
そうか、布の性質で決めるんだな。何をかけよう。
また…失敗したらマズイ。その前に練習しなきゃ。これ?服部のジャンバーだ。ったくどこにでも放り投げてんだから、自分の家じゃないのに。
ちょうどいいや。これでやってみよ。
ブ厚いし丈夫そうだから"高"だな――ON、と。
まだかな…まだかな…………点滅が消えたってことは準備できたんだ。じゃ、かけるか。

ジジッッ!!

どうして香ばしいにおいがするんだ?

「工藤!工藤!掃除終わったで!さあオレと…ってッッ?!そ、そそそそそれーーッッ!!オオオオオレの革ジャンーーーッッ!!!」

革ジャンくらい見てわかるさ。それがなんだってんだ、ウルサイ。
ん?焦げくさい。ありゃ…。

「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁーーーーッッッ!!!!2、2万4980円ッッ!!オレの2万4980円がーーーッッッ!!!」

ハンパでセコイ数字。
焼印みたいで別にいいじゃないか。穴が空いたワケでも縮んだワケでもないからちゃんと着れるし。
でも、まぁ。

「失敗したのが試しでよかった。これが快斗のだったらどうしようもないもんな」
「そ…それないわ…工藤…ぉ…」
「あ、ソレちゃんと持って帰れよ。うちに捨てて帰るのはナシだぞ。ついでにアイロンと台、そこの扉が開いてるとこに片付けといてくれ」


失敗したのは、しないに限る。
でもなぁ…アイロンかけもダメとなると…後、オレにできることってなんだろ?
家事は土台無理だ。他のことだと何があるかな。
うーん……兎にも角にも、快斗にしてあげれることってのが前提。
してあげれること、してあげれること………そうだ!いつもオレがしてもらってることをすればいいんだ!
そうとくれば、道具道具っと―――あった。
で、練習練習っと―――トロイな服部のヤツ、まだ片付けてやがる。そういや、もう一人いたな。

「オイ、白馬」

「ハハハハハハイィィィ――――ッッ!!」

なんだ、まだ洗面所にいたのか。よく聞こえたもんだ。

「何でしょうッッ!工藤くんッッ!!」
「廊下、走るな」
「こ、これは申し訳ないっ!それで御用はっ?!」
「ここに座れ」
「えっ?!こここここって、ここですかッッ?!」

そうだよ。オレの隣だよ。指差してまでやってんのに、なに寝ぼけたこと言ってんだ。

「さっさとしろ」
「ハ、ハイッッ!座らせていただきますッッ!!」
「お手」
「ハ、ハイッッ!!」

全然、快斗の手とは違うなぁ。
なんというか、

「快斗より指が短いし、節くれだってる」
「う…ッそ…そんな…ッ」
「しょうがないか。快斗と比べるほうが間違いだし」

すんごくキレイな手だもんな。
細くて長くて、とても繊細でいて優雅な動きをする指。
でも練習にはちょうどいいや。やるぞ。

「ままさかっ?!ぼ僕の爪を切ってくれるんですかっ?!」
「黙ってろ。気を散らすな」
「あぁ…なんて嬉しいことを!これはまる、でェェーーッッッ!!!!」
「気を散らすなって、言ったのに…」

肉まで切ったじゃないか。けど、そんなに切ってはないはずなのに。オーバーな痛がり方。
もういい。爪きりはヤメだ。
じゃ今度は……れ?なんで服部のヤツ、立ったまま目を見開いて寝てんだ?

「オイ、服部」
「はっっ!お、俺は今とんでもない悪夢を見ていたわっ!」
「何言ってんだ?それより、こっちに来い」
「なんやなんや?!俺に愛の告白かいな?!」

まだ寝ぼけてやがる。
……ヤダな…いくら練習でも、こんなヤツを膝枕するの……でも、練習ナシに快斗にはできないし……。

「工藤ぉ?どうしたんや?」

やっぱ、ヤメ。あれをしよう。

「ここに座れ」
「ここって、絨毯の上かいな?」

さっさとしろって。おし。
え…と、とりあえず肩からするかな。

「えっ?えっ?くどぉ?!肩もんでくれるんか?!なんて優しいんや!ちょっとばかし工藤ぉのために働いたからて、スマへんな!!」
「……なんか服部って、見かけほど体はできてないんだな」
「はへ?!く、くくく工藤サンッッ??!!そそそんな真昼間から触ったらアカン…」

うん、肩も背中も胸も腹筋も全然違うや。

「なんかなぁ、これじゃあ快斗の練習台になりそうにない」
「どどういうことやねんっ?!黒羽のほうが俺なんかよりずっと細っこいやないかっ?!」
「快斗は着やせして見えるだけだよ。しっかり筋肉ついてるし、お前みたいに肉がたるんだりしてない。とってもキレイな身体なんだ。固くて引き締まってるから触り心地もいいし」

あ、オイ。人が話してんのに寝るなんていい度胸してんじゃないか。白馬まで!
コイツら一体なにしに来たんだよ。


あー、もう。それよりも!
本当にどうしたらいいんだ?!
一度失敗したのも練習にならなかったこともするわけにはいかないし。
快斗だって、そろそろ帰ってくる。どうしよ、なんでもいいから記念日らしいこと、したいのに。
どうしょうもないくらい不器用ってのがネックなのはわかってるけど。でも…オレだって記念日を盛り上げて、快斗を驚かして。そして楽しみたい…。
単なる語呂合わせの記念日だけど。
オレと快斗なら、お祝いしたっておかしくない日だなって思ったから。
何か何か何か何か………あ、新聞!
そうだ、新聞に何かヒントになることあるかも!
記念日のことだって、新聞の面白記念日ってのから知ったんだし。
ん、んーーーん?

「…昼時愛のドラマ……―っとの帰宅編……ちょうど今やってる!」

リモコンリモコン!△チャンネルっと。
参考になりますように!





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01.11.06  
   

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