手を取り合うということは、ともに未来へと歩いていくこと。







もちろん、そんなことはわかっていた。
いつ死んでもおかしくない立場であっても、足掻いて足掻いて生き抜かなければならない。
どれだけみっともなかろうと、生を掴み取って。
"死"を近づけてはならないし、"死"を思うことすら許されない。


ただ、愛するひとを幸せにすることを一番に考える。








けれど。
白い衣装を脱ぐことはできなかった。



彼を苦しめてまで、続けなければならないことなのか。
今更死んだ者が蘇るわけでもないのに、彼を独りきりにしてまでやり遂げなければならないのか。
彼との未来を閉ざしてしまうような危険を犯してまで、死と隣あう必要がどこにあるのか。



いつだってどこでだって、己の心に問いかけた。
予告状を書く度に。
石を奪う度に。
組織の連中と対峙する度に。
帰ってきたときに、あからさまに彼が安堵する度に。



それでも、やめなかった。
やめるのは簡単だったけど、きっと先に進むことができなくなるだろう自分がわかっていた。
いつまでも立ち止まって、彼との未来に暗い影を落とす。
強い信念を抱いてはじめたことだから、やり遂げなかったときの反動は大きい。
そんな自分だからこそ彼は好きになってくれたから、愛想尽かしをされることにも怯えるだろう――――とか。



言い訳は色々あるけど。
結局は、一度決意した事柄を翻す気なんてさらさらなかったということ。




「どうしてなの?あなたは彼を手に入れたでしょう?!どうしてそれで満足しないの?!人は同時に二つのものを掴むなんてできないのよ!片方を取れば片方は失う!それくらいわかっているでしょう?!」


気高く誇り高い魔女が顔色を変えて現れても、心は揺るがなかった。
彼女の言いたいことが何なのか、何を予知したのか。容易に想像はついても。


彼との未来を諦めたことなんて一度もない。
死を覚悟したことだって、ない。



でも可能性としては常に頭の中にあった。
"もしも"を考えることは嫌で、思考から外してはいたが。
怪盗として立ち回るなかではそれほど重要視してなかったが。
日々組織の概要を知っていくにつれ、切実に迫られた命題。



ヤツらの息の根を止めるには、ヤツらの中に飛び込まなければならない。
突き止めた組織の本拠と、組織の全てがつまったデータをこの手で二度とカタチを成さないように叩き壊すためには。



やり遂げる自信と確信はあった。
ただ、ヤツらだとて成されるがままヤラれるわけはない。破壊と殺しを何とも思っていない連中だ。
だから必要な覚悟。



死ぬことに、ではなく。
彼との未来を失うことに。



生きることを諦めてはいない。
全てを片付けて、彼を抱きしめたい。
もう大丈夫だと、そう告げて苦しみから解放してやる。
どんなことになっても、生きて還る。


そう、望んでも。強く激しく心に誓っても。
どうにもならないことはある。
そうでなければ、父を失うことだってなかったのだし…。



だから、せめて。
誰より何より大切な彼が、一番苦しまないでいい方法をとろうと思った。
どんな結末を迎えようと、彼が知らないうちに全てが終っているような。
絶対に闘っている最中だと、悟られないような、そんな方法を。



そして、月のない夜に決行すること。



「お願いだから今日だけは止めて!"月下の"と言われるぐらい、あなたと月とは切り離せないのよ!信じないかもしれないけど、あなたは間違いなく月の加護を受けている!どうしても目的を果たすというのなら、せめて月のある夜にして!」



ほんのちょっとしたことで、未来は大きく変わる場合がある。
きっと、彼女との会話も人生岐路のひとつだったのだろう。
根拠のない要素であっても、彼女の言葉だから否定する気はなかった。
いくら強情だからとて、考え方はいたって柔軟。
こっちの方が日がいいとか嫌な感じがするとかで、簡単に計画を変更したこともあったくらい。




それでも。
月のない夜は、彼が最も安心する日。何の憂いもなく眠れる唯一の日だから。
変えるわけにはいかない、決行の日の絶対条件。



彼女の忠告には耳を傾けなかった。




たとえ。
こうなる未来だと、わかっていても。











それでも。











最後の我侭・3.5〜intermisson 





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02.01.14   

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