「なぁ、まだか?」
せっつく声に、男の前に座っていた2人はムッとした顔で振り返った。
「しょうがないやろっ!こいつがしゃべらへんのやから!」
「そうですよ!どこかの誰かさんと同じで筋金いりのシブトさなんですから!」
「なに寝言いってんだ。のんびりやっているヒマはないんだぞ」
「「う…く、工藤(くん)…っっ」」
呆れたように腕を組む新一に、シュンと項垂れる。
大きなバンで居住性を備えているとはいえ、一所に4人も5人も集まれば非常に狭っくるしい。密度の高さがさらに新一の機嫌を悪くする。
「そこらの三流取調官みたいな言い訳なんかするな。時間だってないのに」
「ホント、人の命がかかってんだぜ。少しは真面目にやれってんだ」
「「なんやて(ですって)ッッ?!じゃあ、お前(君)は今すぐ口を割らせられるっちゅうんかい(っていうんですか)っっ!!」」
落ち込んだのもどこへやら、快斗に向かってギギッと眦を吊り上げる。そんな服部と白馬に、快斗は鼻先で嗤う。
「当たり前だろ。吐かせるくらいできないで、エージェントかってんだ。ものの3分とかからねぇよ」
「「ならやってみろや(みてください)!!」」
ばっと席をたって場所を譲る。見下すような視線をむけながら、声高に言葉を続ける。
「もしできなかったら。この任務の報告書、並びに後片付けと犯人の引き渡し業務は全てやってもらいますからね!」
「それから、爆弾処理と関係箇所への説明と報告。もちろん、休暇は返上やで!」
「それって要するに、お前らの尻拭いだよなぁ」
「「ぐっ!」」
きっぱりと言い切られて、ぐうの音もでず。余計なことを言ってこれ以上相手に調子つかせるわけにもいかず、隅の方へと移動する。
「へぇ、今度はにいさんかい。けど、俺はなーんにもしゃべらないよ」
名うてのテロリストは拘束されていようと、ふてぶてしい態度を崩さずにっと笑う。対して、快斗もにっこりと笑った。それには些か、テロリストも鼻白む。
「話さなくっていいよ、とりあえずは。だって、さっさとしゃべられたんじゃあ、オレの楽しみがなくなるからさ」
「ほら、快斗」
「サンキュ」
新一が手渡したのは、大きなアーミーナイフ。革の鞘から抜き取ると、ダンと音をたててテロリストとの間にある机に突き刺した。
「はい、手はここね」
「な、にすんだ?」
手錠のかかった手を突き立ったナイフのすぐ横へと持ってこられて、男の顔が僅かに引きつる。
「吐かせるためにすることってくれば、拷問に決まってるだろ。指を一本ずつ落としていくのは王道だしな」
「そ、そんなことで脅したってムダだぜ?俺、話さないからな」
「脅しじゃないぜ、オレ本気だし。あ、そうそう。止血帯をしとかないとな」
男の首にかかっていたマフラーを取ると、小刻みに震えだした手首にきつくまきつけようとするけれど。ほっそりとした白い手が止めに入った。
「必要ないだろ、どうせコイツは死ぬんだ。それに、出血多量で意識が朦朧としていたほうが自白しやすい」
「そうだね。さすが新一、冴えてる」
「「ちょっちょっと…ま、まままって…?!」」
あんまりな事態に止めようにも、ナイフを快斗に渡したのは新一で。さらに、煽るような発言をされてはまともに止めに入ることも出来ず。おろおろと見守る服部と白馬を他所に、快斗はナイフの柄を握り締めた。
ヴァレンタインデー大作戦 ・ 後編
ヒキガエルの潰れた声が響きわたったのは、快斗に交代してから断言どおりにものの3分も経たない頃。
「なんというか…14日に爆弾を仕掛けるからして曰くありげと思っていたけど、予想を裏切らないわね」
「どうみてもチョコレートをもらえない腹いせだよな。反体制主義が聞いて呆れる。まるでどっかの誰かさんたちみたいだ」
仕掛けられた場所の図面を囲んでのミーティング。
聞き捨てならない快斗のセリフに、白馬と服部は額に青筋をたてながらも反論できずにぐっとガマンするしかない。なぜって、快斗が先ほど新一からプレゼントをもらったのを聞きたくもないのに聞いてしまったせいで知っていたから。
相手の優位を崩すには、新一に認められるだけのことをしなければならない。
(そう!さっき黒羽にやったのは一時の気の迷い!)
(本当は僕へのためのもの!絶対に取り返してみせます!)
単なるココアの缶飲料であろうと、新一からのものならば黄金に等しい。
名誉挽回、己の株を上げるためにやるべきことは一つだけ。服部と白馬はそろって手を上げた。
「俺が爆弾を撤去してくるさかい!嬢ちゃん、許可くれや!」
「いいえ!僕が行ってきます!あのようなところに君なんかが行って何が出来るというんですか!」
「なんやと?!」
「なんですか?!」
睨みあうことしばし、哀の冷たい声が2人に届く。
「どちらでも構わないんだけど。そうね、ジャンケンなさい」
「「へ?」」
「聞こえなかったの?私は同じことを二度言う気はないわよ」
ゾクゾクしたものが背筋を走り抜けて、こくこくと振り子のように頷いた。
バンには居住性もあるが、指令車としての機能性ももちろんあって。数箇所に仕掛けられたカメラから送られてくる映像を、壁面に並べられた液晶画面が映し出している。
映っているのは色黒の男がガードマンらに取り押さえられて、フロアから連れ出されていくところ。
『はなせやっ!俺は客やで!あのチョコレートが欲しいって言ってるだけやないかい!』
『お静かに、他のお客様のご迷惑になりますから!』
『せやから、チョコ売れば静かにしたるわいっ!』
『あれはディスプレイ用だと申し上げているではありませんか!』
『俺はどうしてもあれが欲しいんや!!さっさと売れや!客にこんな扱いしてただですむと思うてないやろなっ!!』
果ては怒鳴り声で喚き散らし始めて、店員はガードマンにさっさと引っ張っていくようにと合図をおくった。
「……情けない」
吐き捨てるように告げた哀に、白馬は俄然胸をはった。先ほどはジャンケンで手柄を譲ってしまったと消沈してしまったが、失敗してくれればこっちのもの。
「お嬢さん!僕が行きます!」
「2人続けて同じヘマはしないようにね」
「当たり前です!僕は服部くんなんかと違いますよ」
では、と片手をあげて洋々とバンから出て行く。その後姿を、新一は不安げに見守った。
「なあ…大丈夫なのか?いくら爆発時刻まで余裕があるからって、こんな悠長に遊んでいて…」
爆弾が仕掛けられたのは、デパートの特別催事場。そこで行われているのはヴァレンタインチョコレートの特別販売会。
平日の昼間とはいえ本番当日、フロアにはぎっしりと女性客がひしめきあって、爆発すればどれだけ被害をこうむるか容易に予測がつく。
新一の発言は、白馬にしてもまったくアテにはならないことを十二分に含ませていた。
「大丈夫だろ。別に敵中から機密を盗ってくるわけじゃないんだぜ」
「そうよ、たかだかデパートの催事場ですもの。できて当然」
「当然って…今、大失敗を見たばかりじゃないか。それに、白馬だってどうせ……あ」 画面には、早速売り場に辿り付いた白馬が映し出された。
売り場に足を踏み入れるなり、先ほどの店員―フロアマネージャーを居丈高に呼びつける。
『ちょっと、君。あそこに飾ってあるチョコレートをもらいたいんですけどね』
『恐れ入ります、お客様。あれはディスプレイでしてお譲りするわけには参りません』
丁重に頭を下げて申し訳なさそうに告げるが、さらに高飛車な言葉を続ける。
『わかってますよ、無理を言っているのくらい。でも、僕はどうしてもあれが欲しいんです!』
『しかし…そうは仰られましても…』
『幾らなら売ってもらえるんですか?君の言い値で買いますから、言ってください』
『ですから、あれは売り物ではありません。どうか、こちらの売り場で他のものを…』
『僕はあれがいいんです!絶対に!あれじゃないとダメなんです!』
懐ろから財布をとって、そこから金色のカードを出すと店員に突き出す。
『君がいいだけここから落としてくれて結構です!もちろん、それと同じ金額だけ君へのチップにしてあげます!』
『お客様、申し訳ありませんがお話はあちらでうかがわせていただきますので、どうぞ』
大きな声と大仰な態度に、チョコレートを買うことに必死になっていた女性客の注意すら引き始めて、マネージャーは場所を移動することを提案するが自分の要求が通らないことに焦り始めた白馬は、強引にディスプレイを奪い取ろうとする。
『お客様!困ります!誰か!』
羽交い絞めにして止めに入ると、騒ぎを聞きつけたガードマンも加勢に入った。
『何をするんです?!僕はチョコレートを買いにきただけですよ?!はなしなさいっ!無礼者…っっ』
みっともない叫び声に意識的に耳栓をしながら、哀は大きくため息をついた。
「…ほんっとに情けないわね」
「どっからどうみても、チョコレート売り場を荒らしに来たモテナイくんだな」
「もう少し考えて動けないのかしら。チョコ売り場に男がいるだけでも目立つのに、店員にいちゃもんをつけて金を巻き上げる迷惑客そのものじゃない」
「まったく、そろいもそろって。特に白馬はどうして失敗したのか見ていたくせに何やってんだか」
呆れ果てた声と表情をする快斗と哀に、新一は頭を抱える。不安が的中したことではなく、目の前の2人だって当然わかっていた結果だったのにさらに失敗を重ねるようなことを敢えてしたことに、だ。
はぁっと大きなため息をつきつつ、一応この先のことを聞いてみる。
「で、どうするんだ?」
「どうって、アレを撤去しないことには休暇に入れないからさ。もちろん、再々挑戦だな」
的外れな快斗の答えに、問い掛けた先が悪かったとばかりに哀へ視線を向ける。
「こうなったら、工藤くんに行ってもらうしかないわ」
「オレ?」
「そう、ってことで。黒羽くん、支度を頼むわ」
快斗へそう言いながら、哀は設えられている棚の上を指す。そこにあったのは、大きな白い箱である。
「OK。おいで、新一」
「は?支度って…快斗?!」
強引に椅子から立たされると、一番奥の仮眠用の部屋へと連れ込まれていく。もちろん、新一の手を引いていない方の手には、白い箱がしっかりと抱えられていた。
「ちょ…っ!なにすんだ!おい、こら!脱がすなっ!快斗っっ!!!」
そんな声から始まった一通りの騒ぎも、何時の間にか静まりかえって。程なく、入っていったとき同様に、快斗に手を引かれて新一は出てきた。
目の前に立つ、白いワンピースを着た楚々とした清純可憐な乙女に、哀は目を細める。
「あらステキ。予想以上に似合っているわね」
「……なに考えてんだ」
地を這う不機嫌そのものの声にも、快斗と哀は微笑みあって微塵も動じる気配はない。まじまじと見つめられて、怒りより恥ずかしさが先立ってしまっているのも、彼らの態度を助長させていた。
「さすが美人は何を着てもいいよな」
「そうね。白は工藤くんが大好きな色だけあって、上手に着こなしているわね」
「よもや、こんなナリで行けっていうのか…?」
わかっていても確かめずにはいられない。予想を裏切らずにしっかりと頷かれて、またも頭を抱え込む。
「だってしょうがないだろ?立て続けにヘンなのが押しかけてきて同じ要求を言ってんだから当然むこうも警戒している。こっそりチョコを盗むなんてことはできないよ」
「今度も売り場に縁のない男がおしかけてごらんなさい。問答無用でガードマンに取り押さえられるわ」
「でも、とびっきりの美人が行けば話は違う」
「私じゃ子供扱いされるのがオチだから、あなたしかできないでしょ」
並びたてられる言い訳に、新一は快斗をきっとにらみつける。
「変装は快斗の十八番じゃないか!肩幅だって変えられるし、女声だって完璧だし。多少バカでかい女になるけど、オレなんかよりよっぽど美人になれるじゃないか!」
「あのさ、男ってのはね。いくら美人でも、自分より背の高い美人は敬遠するものなんだよ。あのフロアマネージャー、確実にオレより背は低いし。何より、オレよりも新一のほうが超絶美人だ」
「それにその服。あなたのサイズですもの。さすがに黒羽くんでも無理よ」
どうあがいても無駄で、爆破時刻が差し迫っていることもあって。新一は不本意ながら任務ということで自分を納得させるしかなかった。
ヴァレンタインデーになると必ず特別催事を妨害にやってくる傍迷惑な輩。今年も例に漏れずやってきた者たちは、乱暴さも強引さも類を見ない性質の悪さで。そんな相手にほとほと疲れさせられていたフロアマネージャーは、麗しいまでの美人にささくれたっていた心がすうっと癒えていくのを感じた。
スノーホワイトのニットのワンピースに、白いショートブーツ。肩から背筋へと流れ落ちる黒髪に、服の白さに引けを取らない白い肌。
長い睫から覗く蒼い光に、誰もが吸い寄せられずにはいられない美貌の主。
うっとりと眺めながらも、佳人のあまりにも物憂げな眼差しに声をかけずにいられなくなる。見つめる先がさっきまでの言いがかりの的である、催事場入り口の何かが憑いているとしか思えないディスプレイであろうと、構わずに。
「あの、お客さま。どうかなさいましたか?」
さりげなさを装って、そっと近付き声をかける。
すると、はっとしたようにディスプレイから上げられた顔が、真っ直ぐに向けられた。
「っっ!!」
息を飲むほどの美人というものがどういうものか、長年接客業に関わってきたマネージャーは今初めて知る。顔は朱を散らしたように、真っ赤に染まった。
「すみません…!こんなところにいて、邪魔でしたわね」
「い、いいえいいえ!!そんなことは!!決して!!」
必死で頭と手を振って否定を示すと。ほっとしたのか、小さく笑みをもらした。その可憐さにぼうっとしてしまうが、見て取れた物憂げな色に正気を保つ。
「あ、あのお客様。お探しのものがあればすぐに持ってまいりますが…何なりと私めにお申し付けくださいませ」
「いいえ…そんな…私…」
断りながらも迷う気配。その視線がじっとディスプレイの、大きなハートのチョコレートから離されないことを目ざとく気づく。
「もしかして、このチョコレートをご所望なのでは?」
「え…ええ……ごめんなさい。売り物ではないとわかっているの。でも…」
哀しそうに煌く蒼い瞳にマネージャーはクラクラっときてしまう。ディスプレイだから売れないと言い切ってきたのに、つい売ってしまいたくなるほど。
それを思いとどまらせたのは、この美人がコレを誰か男に贈ることが頭を過ぎったからだ。俄かに嫉妬心が沸き起こって、美人の願いといえど叶えたくはなくなった。
しかし、続けられた言葉に見当違いであることを教えられる。
「…妹が…どうしても欲しいと頼んできたんです。とても理想的なチョコだから、きっと告白も上手くいくだろう…って」
「妹さんが、ですか」
「ええ。私、恋をしたことがないからよくわからないけれど…とても不安で心配で…何かに縋らなければいられないのでしょうね……妹は、ずっと病気で…どんなに辛くても泣き言ひとついわずに、頼ることもしなかったあの子が…私に初めてしてくれた頼み事…だから…どうしてもかなえてあげたかったのだけれど…」
「ええ?!そ、そうなのでうすか?!それで…っ」
哀しそうな理由がわかったことよりも、この美人が自分のためにチョコレートを必要としていないことが何より重大。売りたくないと思ったのも束の間、マネージャーはディスプレイの中央にデンと飾られていたハートのチョコレートをばばっと手にする。
「どうぞ!お客様!妹さんのためにこんなものでよければお役に立ててくださいませ!もちろん、これはディスプレイですから御代はいりません!」
「え…いいの?本当に?」
「ええ!もちろん!」
「まあ、なんて優しい方」
祈るように両手を組んで、うるうるとした瞳に見つめられて。マネージャーはそのまま昇天してしまいそうなほど、舞い上がってしまった。
「なんてクサイ台本なのかしら」
「でも、効果は抜群だったろ」
「まあね。工藤くんの演技力はさすがだし」
画面には深々と頭を下げる男を後に、デパートの髪袋を大事に抱えて立ち去る白いワンピースの美人が映っている。
ふたりはそれを満足げに見つめる。
「それにしても、いいワンピースだよな。体のラインがきれいに出てるし、ハイウエストで切り替えてあるのもポイントだし」
「でしょ。工藤くんが着ると雪の妖精のようだわ」
「ま、これも予想通りのことしかしないヤツらのおかげだな」
「まったくよね」
しみじみと感慨にふけりながら、快斗はバンの扉に手をかける。開くとそこには、ブ然とした表情の白い妖精がいた。
「おかえり、ご苦労様」
「ほらよ、爆弾」
乱暴に紙袋を快斗へ投げて寄越すと、傍らから哀が取り上げる。
「これは私の実験材料にいただいていくわ。じゃあ、お疲れ様」
「お疲れ、哀ちゃん」
任務が終われば長居は無用と立ち去ろうとする哀に、すっかりと忘れ去られている者たちのことを新一は問う。
「なあ、アイツらの迎えに行かなくていいのか?」
「わざわざ恥じをかきにいきたくないわ。営業妨害で慰謝料をとられても困るし」
「そうそう。これから休暇だってのに、無駄な時間を費やしたくないね」
「けど、口をすべらせて爆弾のことを言ったらどうするんだ?」
「ほっとけばいいのよ。それこそ、もてない輩が嫌がらせの悪戯をしているだけにしか見られないから」
「実際、爆弾なんてどこにもないんだし」
それでいいのかと頭を傾げる新一を、快斗は両腕に軽々と抱き上げた。我に返って抵抗するが、強い腕の力に抜け出すことは叶わない。
「オイ、快斗!なにするんだ!!」
「だって、ようやく休暇に入ったんだぜ。ずっと鼻先に肉をぶら下げられた状態でいたのに、これ以上待たされるなんて冗談じゃない」
「ちょ…っ、だからって!まだ灰原だっているし、テロリストだって!!」
「ああ、あの男はさっき実験室へ移送したわ。じゃ、私はこれで」
車から出て行こうとする哀に、新一は抵抗する理由がなくなってしまう。何か逃れる術はないものかと頭を悩ましているところを、快斗はさっさと着替えをした部屋へと連れ込んでいく。
その背中に、哀は言葉を投げかけた。
「黒羽くん、ソレは私からあなたへのヴァレンタインのプレゼント。だから、破っても構わないけど、来月のお返しはちゃんとしてね」
「はいはい、わかってる」
「それじゃあ、いい休暇を存分に味わってちょうだい」
「哀ちゃんもね。お疲れさん」
「おい、こら!ここ、公道だってわかってんのか?!場所を考えろ!!」
会話の合間に聞こえてきたのは、仮眠用の寝台に横たえられた新一のあがき。だが、そんなことに快斗が動じるはずがなくて。
「このバンの防音設備は完璧だよ。それにちゃんと駐車帯に止めてるから、誰にも文句は言われない」
「ばか!そういう問題じゃないだろ…っこら!」
「うるさい口は、さっさとふさぐに限るな」
「ん…っ」
静かになった車内に肩を竦めながら、哀は静かに扉を閉めた。
end
03.02.16
|