その時、歓喜に奮えた。
彼の裡に燃え上がった炎は、ずっとずっと待ち焦がれていたもの。
奪い取るような激しい口付け。
決して離さないと言わんばかりの抱擁。
孤高の気高い魂を、オレはようやく手に入れることができたのだ。
「…大丈夫、か?」
耳元の囁きに、意識がぼやけていることに気付かされる。
どうしてか瞼をあげるのも一苦労で、体も緩慢な動きしかとれない。
「ねぇ…大丈夫…?」
「あ…」
心配の滲んだ声に、はっと我に返った。
見開いた視界いっぱいに、揺れる藍色の眼差しがある。
瞳が合うと、あからさまにほっとした。
どうしてなのだろうと浮かんだ疑問は、唇を掠めた彼のため息で思い出される。
キスをした。
乱暴で強引で、気遣いもない荒々しい口付け。
彼にしか向いていない心は、簡単に絡め取られた。
意識も、体も。
誰にも支配されたことのない自分自身の全てが、彼のものだという錯覚すらおこさせるキス。
力なくさがっていた手を、彼へと伸ばそうとして。
指先まで残っている痺れに、苦笑してしまう。
ああ、もう自分はダメだ。
そう、心が素直に訴えてくる。
今までの彼には考えられない――やさしさの欠片もない口付けなのに、魂のぬけた状態になってしまった。
いや、やさしさの欠片もないからこそ。
恐れも遠慮も、彼自身がずっと築いていた柵を取り払って、ただ求めてくれたからこそ。
もう、一時たりとも彼なくしては生きていけなくなってしまった。
彼の心、精神、魂―――それら全てと交じり合ったのだ。
この心、精神、魂には彼の全てが刻み込まれた。
そして、彼にも。
もう、彼はオレなくては生きてはいけない。
彼の全てのオレを刻みつけてやったのだから。
「なぁ…もう一回、キスしようぜ」
そうして、オマエの魂をオレが奪いとったことに気付かせてやる。
03.09.10
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