揺ったりと漂っている。
そこはまるで、母親の体内の羊水に浸かっているみたいに温かで心地良くて・・・・・・
このままずっとここに居たいそんな気にさせる何かがあった。
全てを捨てて、忘れてしまいたい。
なにもかも・・・・彼の事も・・・
彼?誰の事だろう。
とても大切な人だったはずなのに・・・・・今の自分は彼の事を思い出せない・・
あれほど想った人なのに、名前も顔も忘れてしまった。
ここには俺を傷つける物が何一つなく安心できるから。
全てを明け渡してしまえと・・・・囁く声が聞こえる。
その誘いに身を委ねようとすると、もう一つの声が聞こえた。
『許さない』
『あいつを忘れてしまうなんて、絶対認めない』
あいつ?
あいつって誰だ?
おまえは誰なんだ?
・・・・・俺は誰だ?・・・・・
俺を哀れむ様にそいつは言った。
『聞こえるだろ。おまえを呼ぶ声が・・・・だから思いだせ』
呼ぶ声?
そんなものどこから聞こえるって言うんだ。
『聞こえるさ。あいつが名前を呼んでくれるなら、小さな呟きだって聞き取ることができる。
どこにだっていける』
何うれしそうな顔して、バカいっているんだ。
『バカはおまえだ。自分が傷つくことが嫌で全てであるあいつを捨て様とする、そんなことは俺がさせない』
傷つくのを嫌がって何が悪い?
自分が傷つくのを喜ぶ趣味は俺にはない。
『傷ついても、大丈夫。本当はわかっているはずだ。あいつが側にいない以上の苦しみはないって』
・・・・・・・・・・
『おまえは戻って良いんだよ。忘れなくても良いんだ。どれだけ傷ついたって癒されるから。
おまえがしてきたことは許されているから』
・・・・俺は誰なんだ
『おまえはおまえだよ』
おれは・・・おれ・・・・・・?
癒されたいなんて甘えた考えもつのを禁じてきた。
それは求めてはいけない気持ち。
誰にも期待なんてしない。
・・・・誰も・・・俺を理解することは出来ない・・・・。
・・・・・・思い切っていたのに
彼のその瞳に自分の姿が映ったとき無性に嬉しかった。
名前を呼ばれて心が震えた。
けれど・・・・・気が付いてしまった・・・・
――――か・・・い・・・――――
あれは俺の名前じゃない
『おまえだよ。少なくとも、あいつは区別してないぜ』
そうだな、いつだって真っ直ぐ俺を見ていたな
『思い出した?』
ああ、本当は怖かっただけだ。あいつの瞳に映る自分と向き合うのが・・・・
もう1人の自分でないと側にいられない気がして。
『いられるさ。どちらも必要とされてるから』
探偵なのに、俺なんかに捕まって・・・
―――かい・・と−−−
無視することも、忘れることもできないくらいの強さで俺を求める声に泣いてしまいそうになる。
行くよ。
そう言ったらそいつは笑った。
うれしそうに。
1度だけ振り向いて
おまえは誰なんだ?
目を覚ましたら、そこには新一がいて泣いていた。
今度こそ迷うことなく新一をかき抱き想いの全てを一言に込めて伝える。
「ただいま」
・・・・・俺はおまえだよ・・・・・
END & BACK→ S
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