love nest
 
「う〜ん、暇だな〜」

今日から3連休というのは喜ばしいことなのだが、工藤邸で快斗は一人、手持ち無沙汰な時間を過ご

していた。

本当ならお昼ご飯を食べて、新一と一緒に買い物に出掛ける予定だったのだが、例の如く警察からの

お呼びが掛かり新一は嬉々として現場に向かってしまった。

一人残された快斗は寂しくリビングで新一の帰りをただひたすらに待っている。

「あ〜暇だ〜」

さっきから暇だ暇だを連発して、その度に深い溜め息。この場に新一が居れば、あからさまに嫌な顔

をして、うっとおしい!と一刀両断すること間違いなしなのだが、ここには今居ないから、快斗は止

まることなくひたすら暇だ暇だを繰り返す。

あまりに暇過ぎてリビングを鳩まみれにしてみたり。

「あ〜羽いっぱい〜新一に怒られるかな〜」

そう思いながらも片付けることはしないで。肩やら頭やらに鳩がすずなりに止まっている。

「もう2時間かー。いつ帰って来るのかなー?」

はう〜と溜め息を吐いたと同時に聞こえたチャイムの音。

「誰だ〜?宅急便か何かかー?」

鳩は止まらせたままで玄関に向かう。

ドアを開けると「どわっ!」という奇妙な声が聞こえた。

「あ、いらっしゃ〜い」

妙な顔をして固まっている相手ににこっと笑いかける。

「ああ、どうも…」

「どうかしたー?」

いまいち反応の鈍い相手に快斗は首を傾げる。

「いや、それ…」

「ああ鳩?ほらほら、皆向こう行ってなー」

指し示されてああ、と納得する。確かに鳩まみれで出迎えられもすれば驚くだろう。快斗にとっては

普通だったからそこまで気が回らなかった。

「えっと…工藤はおらんのか?」

まあ上がれば?と促されて、戸惑いながらも平次は上がる。

「新一は事件で出てんの」

「そうなんか…で、お前は?」

「何が?」

キョトンと問い返されてますます平次は戸惑ってしまう。

「いや、誰なんかと思って…」

今日から3連休という喜ばしい時を分かち合おうと、大阪からはるばるバイクを走らせてやってきたら

新一ではなくいきなり鳩まみれの見ず知らずの男に出迎えられて平次は困惑していた。

「工藤とちょっと似とるけど親戚かなんかか?」

何度か東京には遊びに来ていたのだが、目の前の人物に会ったのは今日が初めて。親戚の話とかは聞

いたことがなかったから、たまたま遊びに来ているのだろうかと快斗を窺う。それに快斗は不思議そ

うに平次の顔をまじまじと見つめてしまった。

「なんや?」

「別に〜」

快斗にしてみれば新一から平次の話は良く聞いていたし、キッドとして大阪で仕事をした時にも何度

か対決したことがあったから初対面という気がしなくて、ついつい友人のような対応をしてしまった。

そーいや初対面だったんだよなーと思い返し、あははははーっと笑った快斗に、平次は分けがわから

ずムッとしてしまう。

大体、新一が居ないこの家の留守番を任せられているということも気に食わない。新一が家に入れる

ということは、それだけ親しいということ。さらに留守番を任せているならば、この目の前の人物に

信頼を置いているということに他ならないのだから。

「結局お前誰やねん?工藤の親戚やないんか?」

「ああ、俺?」

自分の存在が気になってしょうがないらしい平次に、快斗はにやりと笑って平次の顔を覗き込む。

「平次って新一のこと好きだろー?」

「なななな何言っとんのや!?」

いきなり呼び捨てにされたことも気にならないくらいに言われた言葉に反応してしまう。おもしろい

くらいに動揺して赤くなる平次に快斗はおかしくてたまらないというように笑った。

「なんやねん、お前っ!」

腹を抱えて大爆笑している快斗にさすがの平次も思わず怒鳴る。それにも快斗は怯むことなく、笑い

を耐えて事実を述べた。

「俺ー?俺は新一の恋人〜♪」

「なっ!?嘘吐くなやっ!!」

「嘘じゃないもーん。俺ここに住んでるし」

「す、住んどるって…」

「同棲してるって言ってんの」

「どどどどどうせい???」

まるで快斗の言葉を理解できないかのように言葉を繰り返す平次に快斗は呆れる。

「お前、実はバカだろ。ど、う、せ、い!恋人が一つの家で一緒にラブラブに生活すること!」

「嘘やっ!工藤が他人と一緒に生活するなんて考えられへんっ!俺は騙されへんでっ!!」

尚も言い募る平次に快斗はやれやれという気持ちになる。思わず平次の肩をポンと叩いた。

「信じたくない気持ちは分からないでもないけどなー、諦めた方がいいぜ?この事実を素直に認めな。

俺と新一の仲はそれはもう深い深〜いモノなの。あーんなコトやこーんなコトやそーんなコトや放送

禁止用語バリバリなことまでやっちゃってるんだからさー♪」

「そんなん嘘に決まっとる!俺は騙されへんっ!!」

頑なな態度を取り続ける平次に、さてどうやって納得させようかと快斗は考える。

じっと快斗を睨む平次を眺め返してしばし思考を巡らせていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。

それに気付いた快斗は平次をその場に残しキッチンに向かう。

カチャリとリビングの扉を開けて新一が顔を覗かせた。

「あれ?服部来てたのか…どうしたんだ?」

座りもしないで突っ立っている平次に首を傾げる。と、平次がバタバタとものすごい勢いで駆け寄っ

てきて、がしっと肩を掴まれた。

「くどお〜違う言うてくれ〜!!」

「は?何が違うって?」

「一言違う言うてくれたら心が晴れるんや〜!!」

喚かれて、一体何のことかと新一はわけが分からない。

「おい、服部?」

「く、くどお〜v」

「はい。そこまで」

小首を傾げて自分を見つめる新一のとてつもなく可愛らしい仕草に、平次の理性は脆くも崩れ去り思

わず抱き着こうとした。が、ぐいっと襟首を掴まれて行動を阻まれる。ムッとして振り返ると片手に

カップを持って佇む快斗の姿。

なんやねん!という思いを込めて睨んだ視線も快斗は綺麗に無視して新一にカップを差し出す。

「新一おかえり〜はい、コーヒーv」

「サンキュー」

差し出されたコーヒーを受け取って、当たり前のようにキスを受ける。

「くくくくくどお〜〜〜!!!!!」

目の前の光景に平次は素っ頓狂な声を上げてしまう。

「な、なに??」

あまりの声に新一はびっくりして目を丸くした。

「キキキキキ!!!!」

「は?」

平次は“キス”と言いたいのだが動揺しすぎて言葉にならない。わけの分からない奇声を上げる平次

を新一は不審そうな眼差しで見つめてしまう。

「キスぐらいで何動揺してんのー?おかえりのキスは挨拶じゃん?習慣だよね〜新一v」

「あ?そーだな、何かいっつもお前がするからすっかり習慣になっちまったよなー」

言われて初めてそれに気付いたかのように感心した風に呟かれて、平次は目の前が真っ暗になったよ

うな錯覚に陥る。

「ショックや―――――っ(泣)!!!!!」

くうっと涙を流しながらバタバタとその場を駆け去ってしまった平次を新一は呆然と見送った。

「…どうしたんだ?あいつ…」

「さあー?どうしたんだろうねー?」

快斗はやけに楽しそうな表情を浮かべている。

「お前何かしたのか?」

自分が帰って来るまで、一体何の話しをしていたのかと、平次の突然の行動に新一は不思議そうに快

斗に尋ねた。

「んー?別にしてないけどー?ここに住んでるって言っただけだし♪」

「ふーん…服部の行動ってイマイチよく分かんねーんだよなー。そもそも何しに来たんだ?」

「さあねぇ。戻って来るかなー平次。あいつおもしろいから好きなんだよな〜♪」

楽しそうに言われた言葉に新一は押し黙ってじっと快斗を見つめる。

「?なに?どうしたの?」

「…服部のこと好きなのか?」

「え?新一も好きでしょ?」

「…お前、服部のこと好きなんだ…」

なぜだか複雑な表情を浮かべた新一に快斗は首を傾げる。

「…あ!もしかして妬いた?ね、妬いたでしょ?ねーねーvv」

「んなわけあるかよっ!」

嬉しそうに詰め寄る快斗に新一はぷいっと顔を逸らすが、少し赤い頬がその言葉を裏切っている。

可愛すぎる反応を返す新一に、快斗は思わずぎゅっと抱きしめた。

「平次に対する好きは別物だよ〜。あいつ、からかうとすっげー楽しいからさ〜♪いじめ甲裴がある

というか…新一が居なくてさびしーい時間を過ごしてる快斗君の暇潰しには最適だよな〜♪」

「暇潰し?」

「そう。暇潰し♪」

「…ならいい」

平次が聞いたら「そらないやろ、くどお〜(泣)」と嘆くだろうことに落ちついて、立ちっぱなしと

いうのも何だからと、やっとソファに座り一息吐いた。

しばらく談笑して穏やかな時を過ごしていると、ガチャ!と乱暴に玄関の扉が開く音がして、バタバ

タと近付く足音。

「工藤っ!」

バタンッと扉を開けて平次が戻って来た。

「あ、おかえり平次〜」

「うっ!やっぱり悪夢は健在なんか…」

「悪夢って、しっつれーな奴だな〜」

あからさまに嫌な顔を向けた平次に快斗はわざと不貞腐れた態度を見せる。

「服部、お前さっきから何なんだ?何か悪いもんでも食ったのか?」

騒がしい上にわけの分からないことばかり言っている平次に、いつものことながら、新一も少し心配

になる。

眉を顰めて自分を見つめる新一に、平次も快斗のことはひとまず視界から外し、快斗が言ったことの

事実確認をしようと新一に向き直る。

「な、なあ、工藤…ちょっと聞きたいことあるんやけど…」

「何だよ?」

「いや、なあ…」

「何だよ?はっきりしろよ!」

いざ聞くとなると返事が恐くてなかなか言い出せない。その場に佇んで悩んでいる平次を楽しそうに

眺めて、快斗は声を掛けた。

「まあ、座れば?コーヒーでも入れてきてやるよ。俺ってやさしーからさー♪」

促されてひとまずソファに座る。

快斗が傍から離れたのをいいことに、思いきって聞こうと思いながらもなかなか口に出すことができ

ずにさんざん躊躇って、新一が不機嫌になっていくのに慌てて口を開いた。

「…あいつ、ここに住んどるんか?」

「快斗?ああまあ。いつの間にか居ついちまったんだよなー」

平次の質問に、なんだそんなことかと、幾分拍子抜けして新一は答える。

「なんや!あいつが勝手に押し掛けたんか(喜)」

「?服部、お前今日どうしたんだ?マジでおかしいぞ?いつにも増して」

「いつにも増してって…なんやそれ、俺がいっつもおかしいみたいやないか」

「おかしいだろ?」

「工藤〜(泣)」

「で?聞きたいことって快斗のことなのか?」

そういえば、快斗の姿では初対面だったんだっけ?と思い直して新一も納得する。

「いやなあ、あいつが“恋人”とか“同棲”とか言いよるからちょっと驚いただけなんや。やっぱか

らかわれただけ…て、工藤?」

ほっと一安心して言葉を続けていると新一の顔が赤いのに気付いてまさか…という思いに囚われる。

「なあ、まさかとは思うんやけど…あいつの言っとったことがホントいうことは…ないよな?」

「……………」

おそるおそるというように聞かれて新一は何て答えていいやら困る。

確かに快斗は恋人で、ここに一緒に住んでいるのも事実なのだが、いざ面と向かって宣言するのは照

れるというもの。

否定をする気はないのだが、肯定もできない。

「なあ!ホントなんか?あいつと恋人同士なんか!?」

顔を赤くして困ったような表情を浮かべる新一に、平次は否定してくれ〜!という思いそのままに新

一に詰め寄る。

「もー何回言えば分かるのかなー?平次君は〜」

2人のやりとりをおかしそうに眺めて、コーヒーを平次の前に置いてにやりと笑った。

「今から証明してやるからしっかり見とけよー♪」

「んっ!?」

言うや否や快斗は新一を抱きしめてその唇を奪った。突然のことにパニックを起こしている新一をい

いことに、深く舌を絡める。新一が我に返る前にキスに溺れさせて。

さんざん唇を貪ぼられて、やっと開放された時には力が抜けて、新一はぐったりとソファに身を預け

てしまう。

「ショックや―――――っ(泣)!!!!!」

再びくうっと涙を流しながらバタバタとその場を駆け去ってしまった平次を快斗は大爆笑で見送る。

「快斗っ!!」

ハッと我に返った新一はこれ以上ない程に真赤になって快斗を怒鳴りつける。

「お前っ!何てことしやがるっ!!大体、服部に何言いやがったんだ!?」

「だから〜恋人で〜一緒に住んでて〜もうラブラブってこと〜♪」

「!!!!!!!!」

「まあまあまあまあ。平次は新一の親友だろー?きっと祝福してくれるに決まってんじゃん♪今はち

ょっと驚いてるだけだってv大体ホントのことなんだから隠す必要もないだろ?」

「だからってあんなコト!」

いくら事実とは言っても、人が見ている前で濃厚なキスなど、思い返すと穴があったら入りたいほど

に恥ずかしい。

「なに?それとも新一は俺との関係を誰にも知られたくないのか?知られたらマズイような関係だと

思ってる?」

途端に不安そうな表情を浮かべた快斗に、新一もそれ以上言えなくなった。

別に知られて困るような関係ではないと思っているし、恋人同士なのは事実。快斗を好きなこの気持

ちはまぎれもない自分の中の真実なのだし。

「…そんなことない。ただ、お前がいきなりあんなコトするから…」

ぼそぼそと、少し拗ねたような表情で快斗を睨んで。でも知られたくないのではないと、はっきりと

言ってくれた新一に快斗は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

「うん。わかったー。今度は断わってからするから〜♪」

「って、そういうコトじゃねー!人前でするなってんだよっ!!」

「うんうん。分かってるから大丈夫〜v」

「絶対分かってねーっ!!!」

ぎゅう〜っと抱きしめた腕の中で喚く声も愛しすぎて、快斗はにこにこにこにこ笑いながらいつまで

も新一を抱きしめている。

新一も抱きしめられる感触が心地良いのか、抵抗することなく腕の中に収まってくれているから、快

斗はますます嬉しくて一向に腕を離す気配はない。

(今度は平次のやつ、どのくらいで帰って来るかな〜?今、帰って来てくれてもおもしろいんだけど

な〜♪あー見せつけるってホント快感〜vv悪いな平次〜新一は絶対に渡さないぜ〜いつでも掛かっ

て来な〜♪)

もう自分の圧勝を確信できているから、本来ならば邪魔者のはずの横恋慕平次も快く迎えることがで

きる。むしろ遊べるから歓迎しているほどだ。

(新一の為にも俺達の仲を祝福してくれっ♪)

平次が聞いたらきっと「ふざけんな――――っ!!!」と怒鳴り上げること間違いなしなことを考え

ながら、快斗はひたすら優越感に浸った。

⇒『love nest 2』

 

■back



梓さまのサイトにて、初めてキリ番をGETしてリクエストさせてもらったお話です。
ナンバー19991なんですけど、工藤さんの9と1が入っていのはもはや運命だったのではないかと(笑)。
強引にムリをいっていただいてまいりました。梓さま、ありがとうございました♪
リク内容は、『新一に会いにきた服部を、見知らぬ男(快斗)が出迎えて、すでに恋人(しかもとっくに同棲中)がいるという衝撃の事実に直面するというお話』です。
もう快新らぶにとっては、超絶たまらない設定でしょ。
寂しさを紛らすために服部で遊ぶなんて、さすが快斗。鳩とともに登場されては、もうそこでインパクト負け。横恋慕していようと、それを逆手にとっておもちゃにできるとは、さすがvさすがvvの連発です。 でもまさか新一が服部にやきもちやくなんて〜v快斗でなくとも可愛くってたまりませんよね〜。
ただただ、快斗にむいている新一の心に、ものすごく幸せな気持ちになりました♪
                                    2001.09.12









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