いま、ひとり /scene.3 











やりたいことはいっぱいあった。

取り戻した元の姿は、可能性ばかりを秘めていると思っていたから。




徹夜だろうと心ゆくまで読書をして。
誰に遠慮なく、事件の推理をして謎を解いて。
お気に入りだったカフェで静かな時を過ごして。
図書館だって好きな時にいけるし。
子供だからと渋面をつくられることなく、書庫から本を出してもらえて。
そして、学校に行って。
高校生活最後の年を存分に満喫するつもりだった。




朝、だるい体を起して学校に行く。
前日の疲れが残っていないことは稀で、20分ばかりの徒歩通学も辛い時がある。
1限目から6限目まで、同じ姿勢で机に拘束されることにも体はなかなか慣れない。
無論、体を動かすなんてことは厳禁。
体育は常に休んで、サッカー部の助っ人の要請は素気無く断るばかり。
放課後、街にくりだして遊ぶなんてこともできるはずもなく。
幼馴染に強請られても、休みの日に付き合うこともできない。
少しでもムリをすると、貧血に眩暈を連発して寝込んでしまうから。


でも、身体的なことよりも堪えたのは、精神的なこと。
付き合いの悪さから、クラスメイトと疎遠になることはなかった。皆、何か察するとことがあったのだろう。
以前と違う自分を。長い休学から戻ってきても、決して元の通りには戻らないこともあるのだと。それは、きっと探偵としての部分からで、誰も踏み込んでいいことではないと。
体の不調だけは知られたくなかったから、誤解されていることは都合さえよかった。
だけど、やさしい気遣いに甘えるしかできない自分がひどく嫌だった。


そんななかで、幼馴染の抱えている心配を取り除いてやれないことも苦痛でしかなかった。
隠しようもない顔色の悪さを指摘されれば、事件や読書で徹夜をしたのだと誤魔化す。
「どうせそんなとこでしょうよ。それで食事もろくに食べてないんじゃないの?今日、作りに行ってあげるわよ」
頷いて、作りにきてもらえば、彼女の心配も少しは減っただろう。だが、それはできない相談。
「メシは食ってる、博士のところで」
「ホントに?」
「ああ」
「じゃあ、私も行っていい?」
「なに言ってんだよ。オレだけでも迷惑かけてんのに…」
これまでの行いが行いだけに、信じられないのも仕方がない。そうやって、幾度も繰り返される問答。
「昼もいつもどこに行ってるの?新一の分もちゃんと作ってきてあげてんのよ?」
「別にいいって、オレのことは。きちんと食べてるから」
「なら一緒に食べましょうよ」
「…オレ、騒がしいの嫌なんだ」
ろくな言い訳も出来ず、一線を画すような態度しかとれず。彼女の心配を助長して。ストレスだけが溜まっていく、悪循環。


毒に侵されていた体は、内臓器官の機能低下を引き起こした。
もともと口に入るものにそれほど興味はないから、流動食であっても構わなかったが、誰が見ても病人食とわかるのが問題で…。


同情なんてゴメンだ。これ以上の心配も、迷惑をかけることも。
だから、黙っていた。
なんともないフリをして、探偵の仕事が忙しいから学校をないがしろにするようなヤツだと思われてよかった。



でも、限界。
あんなに胸を膨らませて復学を望んでいた自分はもういない。
精神を疲弊させることに、もう耐えられなかった。
これから受験期に入るから、他人のことになんか構ってられない状況的な好機もあった。
自分が目の前にいなければ、幼馴染の心配だって減るだろう。




「―――学校だってあるんだから!オレはオマエと違って、やめる気はない!」




ほんの少し前に言ったこと。
だけど、もうずい分昔のような気がした。






01.09.22  
scene.4  

 


  
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